MENU

耐震リフォームのポイント 屋根編

2024年1月1日に発生した能登半島地震で被災された方、ご遺族の皆様に
謹んでお見舞い申し上げます。

また、今日1月17日は阪神淡路大震災から29年となりました。

私はリフォームや新築の住まいを設計したりお客様と一緒に創ってきた仕事が多く、
これらをこのブログでお伝えしていこうと思っています。
また、一級建築士であり、耐震診断や耐震相談をお受けし対応した木造耐震診断士でも有り、
3.11の際は、千葉県浦安市で建物被災判定などにも少なからず関わりました。

 地震という自然災害は、命を奪われたり、家族や人生をも変えてしまいます。
大地震が起こってしまうと私たちは為す術もないわけですが、少しでも被害を減らすことが出来る
手立てもあります。 

この記事では、屋根にスポットをあてて、葺き替える場合や効果やお勧め屋根材などについて
解説していきます。

目次

 ⇒屋根は 軽くした方が 耐震性では有利。 

 建物の条件が全く同じで、屋根が軽いか重いかだけを比べた場合、重い屋根は倒れる確率が高まります。
(耐震診断では『構造評点が下がる』と言う。数字が小さいほど倒れる確率が高まる) 

 では、軽い屋根にしたら絶対倒れないか、というと一概には言い切れず、壁の耐力壁、基礎、劣化など
建物を構成する各部位の状態にもよります。

耐震診断では、屋根の重さ と 壁面の仕上げ等により
「軽い建物」「重い建物」 「非常に重い建物」 と分けられます。
軽い建物・・・屋根はスレート葺き、
重い建物・・・屋根は瓦屋根の桟葺き、
非常に重い建物・・・屋根は土葺き瓦、(壁も土塗り壁)
 という風に、「非常に重い建物」は昔ながらの伝統工法の家屋を指す場合が多いです。

  耐震性を上げるためには、それぞれの「建物」に応じて、屋根だけでなく丈夫な壁=耐力壁 が必要です。
必要な耐力壁は「建物」の種類別に、また幾つかの条件から、また床面積から算出されるのです。

 平屋の場合で解説すると、a軽い建物を基準に考えると、b 重い建物の場合、
必要壁量は 約1.43倍、(a ×1.43=bの必要壁量)
非常に重い建物の場合は約2.36倍となり、(a ×2.36=Cの必要壁量)
いかに屋根や壁が重い重量のある建物の場合、耐力壁が必要かがわかります。
 (b×1.65倍=Cの必要壁量)

まずは、屋根を少しでも軽くすることは耐震性アップのためには必要、といえます。

 現在、瓦屋根の場合、他の屋根材に葺き替えた方がよいのでしょうか? 

古い瓦屋根の場合は、瓦の下の土を取り除いて、葺き直す

能登半島地震での倒壊した写真を見ると、地面に崩れ落ちた屋根やバラバラになった瓦からは、
土は見えていない場合が多いようです。すなわち、土葺き瓦屋根といった「非常に重い建物」ではない。 瓦屋根ではあるけれど、「重い建物」という分類です。 
 ではどうして倒壊してしまったのでしょうか? 
推測ですが、やはり壁量が不足気味だったり、以前の地震(このエリアでは群発地震が多発していた)で
既に損傷していたり、以前からの柱など傷みや劣化があったり、それよりなにより、
それらを上回る地震の力によるものだと言えます。
 もちろん、倒壊を免れた建物も存在しているようなので、詳細な調査結果が待たれますが、
瓦屋根に対する耐震補強は行った方が良いでしょう。

私がリフォームした事例では、
建物全体としては頑丈に作られていましたが、やはり瓦が長い間で傷んでいたり、
漆喰補修がされていなかったり等(あの、瓦の間に見える白い部分)、定期的な補修はあまり
されていませんでした。(結構これが大事)
土葺きだと分かり、土をおろして葺き替えることに。
写真のように大量の土を除去することになり、この土降ろしが大変な作業となりました。
これら土を降ろして取り除くだけでも随分と軽くなります。

瓦屋根など重たい屋根に不安の方は、屋根材をリフォームで葺き替える等も検討してみても良いでしょう。ただし、屋根だけに着目するのではなく、耐力壁や基礎など建物全体を見直したり、点検したりすることが重要です。

 耐震を検討する際の屋根は、屋根材の重さだけでなく、建物が積雪地域や多雪地域か、屋根の勾配はどのぐらいか、切り妻・寄棟といった屋根形状、もちろん建物シルエット等、様々な要因も絡んできます。建物シルエットなどは簡単に変えることは出来ませんので、簡単に耐震性アップを目指すには、やはり屋根材を見直す、ことが手っ取り早いとも言えます。

では、どんな屋根材にするのがいいのでしょうか? 瓦屋根はダメなんでしょうか?

重量だけで決めにくい デザイン(見た目)、予算、トータルで考えよう

古い土葺き屋根 の場合

 土葺きの古い瓦屋根の場合、土を取り除くために瓦を取り除く(瓦をおろす)のですが、
良質な瓦の場合、再利用できる場合があります。
 リフォームで古民家など屋根面積が大きい場合、メイン部分は新しい瓦を葺いて、裏側(北側とか)や小屋など古い瓦材を再利用して葺く場合があります。ただし、手間はとても掛かりますので、材料費を抑えられても手間代が掛かるのと、慣れた瓦葺き職人が少なくなっているので、良い職人さんに出会えれば良いですね。

一般的な瓦屋根の場合(和風、洋風 共に)

屋根材の選択肢別に解説していきます。

 ア)瓦屋根 同等の陶器瓦、防災瓦
 イ)瓦屋根 軽量瓦 (陶板瓦で軽量)
 ウ)軽量セメント瓦(KMEW ルーガROOGA 和風、洋風ともにある)
 エ)薄型屋根材=軽量スレート瓦(セメント製の屋根材)
   スレート、コロニアル、カラーベスト など呼び方は様々  
 オ)金属屋根:ガルバリウム鋼板や金属瓦 
 カ)銅板葺きなど 

ア)瓦屋根 陶器瓦・防災瓦

  現在、土無しの瓦屋根の場合、同じような瓦屋根にするのは、耐震面では変わらない事となり、
葺き替えの効果はありません。 ただ、今は「防災瓦」といって瓦が外れて落下したり、台風で飛んだりといった事を 抑えるような固定に特化した瓦などがあります。

  ・例:三州瓦 和瓦いぶし銀、フラット瓦(洋風) 43~45kg/㎡

イ)瓦屋根 軽量瓦(陶板瓦で軽量・一部が空洞となっている)

 現代風のデザインでフラット形状の瓦で、重厚感のイメージは残しつつ、重量は少し軽くなっています。
軽く素敵ですが、ちょっと高価になりそうです・・・

 EX.鶴弥 スーパートライ美軽(粘土瓦 洋風)  31kg/㎡ 

ウ)軽量セメント瓦(KMEW ルーガ ROOGA)
出典元:KMEW ルーガ雅 カタログより

 イ)よりも軽く、従来のスレート、コロニアルと呼ばれるような昔、ハウスメーカーが採用していた瓦よりも、重厚感のあるデザインで「厚物スレート瓦」とも呼ばれています。

 和風の「雅」、洋風の「鉄平」という2種類のデザインで、色も複数あります。
  KMEW ルーガROOGA (樹脂繊維混入軽量セメント瓦) 約21kg/㎡  

いままでは重厚な瓦屋根だったのを、この軽量セメント瓦に変えた、というリフォーム事例は多いです。(私も対応したこと有り) 
   

瓦屋根の良いところは、桟葺きにして、屋根瓦の下(裏)側に通気層が出来て、熱がこもりにくい点にあります。冬場は空気層として自然な断熱層となる、というわけです。

 エ)薄型屋根材=軽量スレート瓦(セメント製の屋根材)

 スレート、コロニアル、カラーベスト など呼び方は様々、これらは従来からある屋根材で、多くの会社から様々な商品が出ています。
 太陽光パネルを載せる場合などは、この商品群や、次のガルバリウム鋼板の屋根材の場合が多くなります。
  EX・コロニアル屋根 (写真はKMEW コロニアルクアッド) 約21kg/㎡ 

 軽い建物となり、地震では有利ですが、耐久性の面でのデメリットが葺き替え費用となって発生する、重厚なデザインとは異なり現代風のイメージになるので、好みが分かれたり外観イメージとの全体バランスを考慮する必要があります。 瓦屋根からこの薄型に葺き替えの場合は、外観イメージが大幅に変わるので、よく検討する必要があります。
  メンテナンスで塗替えなどが必要ですが、塗替えるよりも同等品を葺き替える場合が多いように思います。

オ)金属屋根 ガルバリウム鋼板 /金属瓦 
出典元:三晃金属工業(株) 縦葺き立はぜタイプ

 建築家が作るモダンな家として一般化して、今は市民権を得ているガルバリウム鋼板の屋根です。元は阪神淡路大震災を機に見直された屋根材で、昔は工場や戦後のバラック小屋などというイメージから、高齢の方には良いイメージを持ってない方が多いようです。
しかしながら、今は全く昔のモノとは異なり、高い耐久性や意匠性など木造戸建て住宅にも合う様々なデザインが揃っています。コストや耐久性や耐震性でとても有利、ということや、モダンなデザイン、シンプルイメージと相まって、今は葺き替え候補として人気の屋根材でも有ります。

出典元:アイジー工業 スーパーガルテクト

   EX. アイジー工業 スーパーガルテクト 約5kg/㎡ 

 金属瓦という金属を成形して洋風瓦のようにしたものも有り、立体的でありながら軽量化を実現した商品もあり、お勧めです。 
 金属の屋根材は、瓦屋根と比べると雨音など気になったり断熱性などを補う必要があるなど、デメリットを補完する手立てが必要と言われてましたが、断熱材が付いた商品が出るなど、日々進化している屋根材といえます。

 カ)その他 銅板葺きなど

これら以外にも屋根材はあり、代表的なのは銅板葺きです。高級住宅や和風住宅の下屋などに使われますが、職人が限られてきているのが現状です。 

◆屋根材・瓦を葺き替えるリフォーム まとめ

以上、屋根材別にポイントを解説しました。
屋根材を選ぶ基準は、材料の重量以外にも、見た目デザインや価格など様々な条件を考慮して決めていくことになります。 また、屋根勾配によって選択できる屋根材が制限される場合もあります。 

 葺き替えリフォームの場合は、周辺部材(破風板、鼻板部材、雨樋、板金等)も交換した方が良かったり、葺き替えの際に傷んでいて破損する等がある為、交換を進められる場合が多いです。
 また、足場を組んでの作業となる為、続けて外壁の再塗装など外廻りのリフォームと一緒に行うと経済効率の面では良いですが、相対的に費用はアップします。 
住まい全体のリフォームのタイミングなどから葺き替えを行うのが良いでしょう。

 屋根の葺き替えでよく遭うのがリフォーム詐欺です。
屋根に上って破損した写真を見せて葺き替えやメンテした方が良い、と進めるケースがあります。写真は本当に自分の家かどうか、瓦のアップだけ見せられても分からない場合が多いです。必ず全体写真や周辺も映っている写真ももらうようにしましょう。 (グーグルマップの航空写真で、自宅の屋根が見れますね。一度どんな風になっているか確認してみましょう)

 また、屋根がずれないように接着剤やコーキング材、コーティングなどで全面を塗ったり一つ一つの屋根材を全部くっつけてしまう場合があります。屋根材はその隙間から内側に少し入った雨など水分をスキマから蒸発させ乾燥させて保たれています。よって、全部くっつけてしまうと水分の逃げ道がなくなって、下地材が腐ってきたり、雨漏れの原因にもなる場合があります。屋根材にあれこれと追加するメンテナンス法はあまり私はお勧めしません。(もし良い方法があれば、逆に教えてくださいね)

屋根を葺き替えて少しでも軽くすると耐震性は上がったり、地震には多少有利になりますが、「じゃあこれで倒壊しないね」とはなりません。
 屋根を軽くしても、それに応じた耐力壁の量や配置になっているか、が大事です。 
そのためには専門家による耐震診断や、不足している壁面を増やしたり、頑丈な壁を作ることが重要です。

詳しくは次回に、壁の耐震について書きますが、
壁も見直して耐力壁をアップさせることで、屋根を葺き替えた事も活きてきます。 



最後までお読み頂き、ありがとうございました^^ 

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

一級建築士・インテリアコーディネーター
住宅設計に関わり、新築、リフォーム、リノベーション、インテリアデザインやコーディネイトなど多くの物件を手掛けた経験をblogで発信。 
設計事務所自営。 過去に勤めたハウスメーカーや設計事務所、工務店、建設会社等での豊富な経験から、コストとデザインのバランスを意識した空間創りを心掛けています。 

コメント

コメントする

目次