
リフォームやリノベーションの事例というと、写真などのビジュアルでビフォーアフターを紹介するのが一般的です。
ただ私の場合、お客様から「写真掲載は控えてほしい」と言われることもありますし、内容によっては、見た目だけでは伝わりにくいケースもあります。
また、リフォームというのは単に「古いものを新しくする」だけではなく、そこに暮らす人たちの想いや事情が深く関わっています。
なので今回は、写真ではなく“ストーリー”として、過去に私が実際に対応したリフォーム事例をご紹介したいと思います。
(※当時の所属会社も含む実体験です。個人が特定されないよう、一部内容をぼかしています)
第一話 ~想いはそれぞれ~
登場人物: 70代男性 Aさん
70代女性 (奥様)
・築約40年 木造2階建住宅
現地に行けない!? 調査させてもらえない?!

ある日、その方から「リフォームしたいんだけど」とご相談のお電話が入りました。
何人か担当者が対応したものの、どうもうまく進まなかったようで、最終的に私が担当することになりました。
お電話すると、打合せ場所として指定されたのは、とある駅前の喫茶店。
私は、
「あとでご自宅も見せてくださいね。リフォームできるかどうか、ご希望通りに進められるかは、現地調査が必要なので」
とお伝えしたのですが、返事はどこか曖昧でした。
(どうやら、それまでの担当者さん達も“現地調査ができない”状態で止まっていたようです)
会って話がしたい、とは何度もおっしゃってたそうなので、
とにかく一度お会いしよう、ということで喫茶店へ。
ヒアリングシートに、お名前や住所をご記入頂いていたのですが……
住所を見ると、マンション。
「あれ? 戸建てのリフォームではなかったですか? もちろんマンションリフォームも対応していますが……」
するとAさんは、
『とにかく出来るかどうかを聞いてるんだ! どこでもいいだろう』
と、少し強い口調。
私は戸惑いつつも、まずはお話を聞くことにしました。
「どのようなリフォームをご希望なんでしょうか?」
するとAさんは、
『予算は700万円。これで何ができる?』
『キッチンと寝室、できればバリアフリー。
それと外壁や屋根も直したい。古いからな』 とおっしゃいました。
私は、
「まずは現地を見せて頂いて、図面がなければ各部屋を採寸させてください。
写真も各お部屋、今回は図面が無いので全部撮らせて頂きたいのです」
「ご家族は何人ですか? キッチンはどのように変えたいですか?
失礼ですが、Aさんがお料理をされているんですか?」
など、ゆっくりヒアリングを進めていきました。

ですが、Aさんは黙ったままで・・・・
そして、ぽつりと、
『家はすぐには見れない』
『家族は1人。たまに子供が帰ってくるかなぁ』
さらに、
『実は、そこにボクは住んでないんだ……カミさんだけ』 と。
『だから、カミさんの都合を聞かないと、いつ家を見せられるかわからない……』
私は、何か事情がお有りなのだと感じ、
「単身赴任とかでしょうか? 奥様と直接やり取りさせて頂ければ大丈夫ですよ」
するとAさんは、
『あの家には30年住んでいない』
『カミさんとも会ってない』 とおっしゃったのです。
私は思わず、 「え……と、それは……どういうことでしょうか?」
と、恐る恐る尋ねました。
「もしかして、別居……とかでしょうか?」
そして、
「ご自身が住んでいなくてもリフォームは可能です。
ただ、所有者と居住者が異なる場合、それぞれにお話やご許可が必要になります」
「私が対応すること自体は可能ですので、もう少し詳しく教えて頂けますか?」
と、お伝えしました。
リフォームを“プレゼント”したい

Aさんは、少しずつ、ゆっくりと話してくださいました。
『ボクが、まあ色々あって家を出たんだ。まあ……分かるやろ、アレやアレ』
『カミさんは子供を育てながら、何か仕事して頑張ってたみたいだ』
『結局、離婚はしてない。オレも退職金と年金で生活できてるし、
この予算で何か出来るなら、してあげたいと思ってな』
そして、
『今、カミさんは入院してるらしいんだ。
だから、その間にリフォームできたら、サプライズになるやろ?』 と。
私は、ようやく、“現地調査に行けなかった理由”を理解したのでした。
私は、
「事情は分かりました。対応は可能ですので、ご安心ください」
とお伝えしました。 ただ、その上で、
「まずは奥様ご本人のご希望をお聞きした方が良いと思います」
「サプライズで勝手にリフォームするのは、あまりおすすめできません。
実際に住まわれている方のお困り事や、ご要望を確認した上で、
Aさんのご予算にも合わせて計画した方が、きっと良いリフォームになります」
「奥様へのヒアリングは私が対応できますので、大丈夫ですよ」
とお話しました。
さらに、
「入院中に工事できれば理想的ですが、お部屋の片付けなども必要ですし、
これからプランや仕様決め、見積り、工事準備などを進めると、早くても1〜2ヶ月ほどは掛かります」
とご説明しました。
するとAさんは、
『そんなに掛かるんか……』
『2ヶ月後に完成した家に戻るってこと? それは遅いなぁ』 と、少し残念そう。
私は、
「便器交換だけ、キッチン交換だけ、ならもっと早いです。
でも、その辺りも奥様のご希望を聞いてから決めた方が良いと思います」
とお伝えしました。
するとAさんは、
『まあ、そうやな……』『入院期間も病状も詳しくは分からない事も多いし』
『サプライズはやめた方がええんやな。分かった』
『代わりに希望を聞いてくれると助かる』
と、少し照れくさそうにおっしゃいました。
私は、
「リフォーム費用を出すことは、ぜひAさんから直接お伝えしてあげてください。お電話でも良いので」
とお願いしました。
「もし難しければ、私から病院へ伺うことも可能ですが、突然知らない人が尋ねて行っても奥様も驚かれると思いますので」
と言うと、
『えー、オレから電話するん? イヤやなぁ……』
と言いながらも、
『分かった。そうするわ』
と、ちゃんと向き合ってくださいました。

その後、Aさんから、
『ちゃんと電話した』
『リフォームをプレゼントするって言うの、めちゃくちゃ言いにくかったけどな』
と連絡がありました。
私は内心、「どんな風に伝えたんだろう……」と思いつつ(笑)、
最初のハードルを越えた、とホッとしました。
なぜ“現金”ではなく“リフォーム”だったのか
Aさんは、こんなことも話してくださいました。
『最初は入院費として現金を渡そうとしたんだ。
でも、“お金はあります!!”って断られてな』
と苦笑い。
そして、
『カミさんは、あの家が好きだったんだ』
『結婚してすぐ買った、小さい家なんだけどな。大事にしてた』
『退院して少し不自由になったとしても、多分あの家に戻ると思う』
『オレがマンション住まいやから余計に、“マンションなんて嫌”っていう人なんや』
さらに、
『オレも、ずっと悪かったなと思ってて……
何か出来ないかって、ずっと思ってたんや』
と、ぽつり。
私は、その言葉がとても印象に残っています。

その後、私は入院先へ伺い、病院の喫茶室などで奥様と打合せを行いました。
また、お子様に立ち会って頂き、鍵を開けてもらって、ようやく現地調査も実施できました。
奥様のお話から分かったのは、
・入院は長期ではないこと
・退院後すぐの一人暮らしは不安なこと
・しばらくはお子様宅で過ごす予定であること
・でも、できるだけ早く自宅へ戻りたいと思っていること
・以前から、気になっていた部分が有り、リフォームしたいと思っていたこと
等々でした。
そこから少しずつ打合せを重ね、無事にリフォーム工事を行うことができました。
Aさんには、
・設計契約
・見積り内容
・工事請負契約
・工事中の状況
・完成後の写真
などを、その都度ご説明していました。
(契約者もお支払いもAさんでしたので)
工事前、室内を一部解体するため荷物を搬出し、家の中が空になったタイミングで、奥様達とは別の時間帯に、Aさんに現地をご案内しました。
私は、
「ここはこう変わります」
「ここは段差を解消します」
など、図面や資料では分かりにくい部分を現地でご説明しました。
Aさんは静かに頷きながら、家の中を見ておられました。
(完成後に見に来られることはありませんでしたので、お写真を送りました)
最後のお振込み後のお電話で、Aさんは、
『リフォームをやって良かったわ』
『間に入って色々やり取りしてくれて、助かった』
とおっしゃってくださり、私もとても嬉しく思いました。

ご家族には、それぞれの事情や想いがあります。
リフォームは、単に古くなった家を直すだけではなく、
人の気持ちや人生にも関わる仕事なのだと、改めて感じた出来事でした。
私が間に入ることで、少しでもその想いのお手伝いができたのなら、こんな嬉しいことはありません。
今でも記憶に残っている、大切なエピソードです。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
※参考:設計料(約65万円)、工事費(約700万円)
