
リフォーム(Reform)やリノベーション(Renovation)の事例をストーリーとしてご紹介するブログ記事です。
私が実際に対応したお客様の事例をご紹介しています。
また、リフォームというのは単に「古いものを新しくする」だけではなく、そこに暮らす人たちの想いや事情が深く関わっています。
今回、ご紹介する “ストーリー” はこちら。
(※当時の所属会社も含む実体験です。個人が特定されないよう、一部内容をぼかしています)
第二話 ~『最後はここで』の意味 ~
登場人物:70代女性 Bさん ほか
・築約40年 木造2階建住宅
『棺桶が通る家にしてちょうだい!』
私がご紹介を受けて、初めてBさんとお会いしたのは病院の喫茶コーナーでした。
入院中のBさんは車椅子ではありましたが、お元気そうで、ハキハキとお話しされる印象的な方でした。
ご要望をお伺いすると、開口一番、
『棺桶が通る家にしてちょうだい。 今のままじゃダメなのよ 』
とおっしゃいました。
私は初めて聞くご要望でしたので、驚きながらも、
「最近はご自宅ではなく、斎場や自治会館などでお葬式をされる方も多いですよ。
その方が、ゆったり最後のお別れができる場合もありますし…」
とお伝えしました。
するとBさんは、
『あの家から最後は出ていきたいのよ。
あの家で葬式をして、あの家から出棺したいの。
来る人も友人数人だけ。それで構わない。大きな会場なんていらないのよ。
でも最後は、あの家からがいいの』
そして続けて、
『もう、あの家は見ましたか? 出ないでしょ、かんおけ!』
とおっしゃいました。
私はまだ現地を確認していなかったため、現地調査をさせていただきたいとお願いし、
後日、近くにお住まいのお子様立会いのもと、調査を行いました。
同時に、「棺(ひつぎ)」のサイズや、お見送り時の搬出ルートについても確認しました。
当時は今ほどネット検索も一般的ではなく、電話で問い合わせたり調べたりしながらの確認作業でした。
その結果、
・棺(ひつぎ)のサイズはいくつか種類があること(Bさんは小柄)
・棺は水平のまま、人の手で搬送されること
・マンションのエレベーターは担架同様、棺が入る寸法になっていること
・昔の住宅は「田の字型」の間取りだったり、縁側・庭があり搬出しやすかったが、
現在の住宅では難しいケースも多いこと
などが分かりました。
それらの内容と現地調査をもとに、現在のご自宅で可能か否か、
またご希望を叶えるにはどの部分をどう改修すれば良いのかをご提案しました。

ご自宅での葬送を意識した間取りに

現状のお住まいは、道路の突き当たり(曲がり角)に位置しており、
『通行人が家をよく見て通るのよ』『それが嫌で目隠しをしてばかりだったけど、それがジャマなのよ』
とのことで、狭い範囲で門の位置をずらしたり、塀で目隠しをしたり、ハンギングに花を飾ったりと、
長年工夫をされていました。
園芸が日課になっていたそうですが、体調を崩されてからは、なかなか手入れもできなくなっていたとのことでした。
リフォームプランでは、外部の門や塀まわりをすっきり整理しつつ、道路側の和室を少し改造することで、ご希望を叶えられる計画としました。
塀は少し位置移動させ、面積を減らして動線のジャマにならないようにして、
お花の柄のタイルを埋込み、ハンギングの代わりといたしました。
ご提案時には、葬儀の際の人の流れや動線計画も含め、
「最期に棺をどのルートで出棺するのか」
を、間取り図をお見せしながらご説明しました。
(※実際の対応は地域や葬儀会社によって異なります。
どうもお知り合いの方にお見せして、OKを頂いたようでした)
Bさんは、
『玄関から出たい』
というご希望をお持ちでしたので、玄関横の和室から玄関へスムーズに出られるよう、
建具を2枚引き込みに変更しました。
プランやパースをご覧いただきながら、一緒に“その時”の流れをシミュレーションしていきました。
するとBさんは、
『これなら安心して死ねるわ!』
と、病院で明るくおっしゃったのです。
私は思わず、
「いやいや、まだまだ長生きできますから。
退院後の暮らしも見据えて、お家を整えていきましょうね」
とお伝えし、その後は日常生活のためのリフォーム内容についても、細かく打合せを重ねていきました。
和室は、退院後の生活の中心となる部屋でもあるため、腰窓を掃き出し窓へ変更し、少しでも外の景色を眺められるようにしました。
布団生活だったBさんも、周囲の助言もありベッド生活へ変更することに。
『葬儀の時、このベッドはどうするの?』
というご心配もあり、スノコタイプで、ご家族でも移動しやすいベッドをご提案しました。
ちょうど工事契約は退院後となり、ケアマネジャーさんにも同席いただきながら、手摺位置なども確認することができました。
また、お荷物整理のためにご自宅へ入ることもでき、結果的にとても良い流れで工事を進めることができました。
その他の工事
寝室兼和室には耐震補強も行い、安心して休息できるよう配慮しています。
キッチンまわりについても、床の傷みが激しく沈み込みがあったため、床をめくって下地からやり直す工事を行いました。

床の傷みについては、現地調査の段階から把握しており、ある程度の補修費用は見積りに含めていました。
ただ、その原因までは、床下を覗いただけでは分かりませんでした。
通常の経年劣化よりも傷みが大きかったため、
「何か別の原因があるかもしれません」
ということは事前にお伝えし、本格的に解体してみないと判断できないこと、
状況によっては追加費用が発生する可能性があることも、
あらかじめご了承いただいていました。
そして案の定、地中に埋設された水道管から水漏れが発生しており、
長年にわたって土や基礎が常に湿った状態になっていました。(昔の工事の際に何かあった模様)
その影響で、通風が取れない床下では湿気がこもり、土台や大引きなどの構造材も、床板同様かなり傷んでいたため、交換が必要となりました。
結果として追加費用は大きくなってしまいましたが、Bさんにはご理解いただけました。
それは、
・設計者である私が頻繁に現場へ足を運び、状況説明を行っていたこと
・当初から「追加の可能性」について共有していたこと
・設計者・大工さんや施工者で対処法を話し合い、お客様にも適宜説明して、
ご納得いただいた上で工事を進めたこと
などがあったと思います。
工期は予定より長くなりましたが、Bさんと揉めることなく、工事を進めることができました。
完成後、お引越しの際には、元気になられたBさんの笑顔を見ることができ、私自身も本当に安堵しました。
その後も長く、ご自宅で快適に暮らされ、ご希望通りの日々を過ごされたのではないかと思います。
実は、このBさんは、別記事に登場するAさんの奥様です。
それぞれの人生を懸命に歩まれたお二人から、私はたくさんのことを学ばせていただきました。
「終の棲家」という言葉がありますが、その形は本当に十人十色です。
最後まで自分らしく暮らしたい。
最期の時まで、自分の望む形を大切にしたい。
その想いに寄り添い、空間を整え、暮らしを支えるお手伝いができたことを、嬉しく思っています。
以上、過去のリフォームストーリーでした。
いかがでしたでしょうか?
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
